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VFMによるトポロジー解析の方法
2024.02.19

心内の血流解析における渦の重要性

 

 心臓の内部では血液が回転するような振る舞いをすることが知られており,渦血流と呼ばれています.この渦血流は効率的な血液循環に寄与すると考えられています.安定した渦血流は血流の乱れを最小限に抑え,心臓のポンプ機能を助けます.

 また渦血流は病態と関係を持つことも知られています.心臓,血管の異常は安定した渦血流の形成を阻害することがあります.阻害された渦血流は病態によって,正常な心臓の渦血流と異なる不規則な渦血流を形成します.そのため渦血流を解析することは病態の特定や,ポンプ機能の効率を定量的に評価することにつながります.

 しかし心臓内部の渦血流は非常に複雑で,心臓の拍動と共に刻々と変化します.そのため,心臓内部の渦血流を安定的に解析することは従来の解析手法では困難でした.そこでVFMでは渦血流を安定的に解析するためにトポロジーを用いた解析,トポロジー解析を行います.本記事では坂上先生,板谷先生の論文「Topological Identification of Vortical Flow Structures in the Left Ventricle of the Heart」をもとにVFMとトポロジーによる文字列表現の対応を解説します.

 

トポロジー解析とその手法 

 

 トポロジー解析では,トポロジー(位相幾何学)と呼ばれるある図形に対して少しの変化を加えても変化をしない図形の性質を調べる学問を,流れに対して適用することで解析を行います.トポロジーは以下の図のような穴の数に応じて区別するもので,VFMでは流れの穴つまり渦を構造として抽出して区別を行います.

 具体的には渦血流から渦構造を抽出し,区別するための文字列を与え,その文字列を規則通りに組み合わせるという方法で解析を行います.ここで規則通りに組み合わせた文字列をCOT表現と呼びます.トポロジー解析手法は,トポロジーを用いて渦を抽出することで安定的な解析を実現し,文字列という流れを識別する指標を与えてくれます.

 

流線からCOT表現を構成する方法

 

 改めてCOT表現は流れと1対1で対応する文字列表現です.トポロジカルに分類した流れに文字列を与え,規則通りに文字列を組み合わせたものがCOT表現です.トポロジー的にすべての流れを分類し,識別することが可能です.

 次にトポロジカルに分類される流れについて説明します.流れの種類は大きく2つ存在します.基本構造と部分構造です.基本構造は流れの最も大きな構造です.流れが大まかにどのようなものであるか決定します.部分構造は流れを特徴づけるより詳細な構造です.イメージとして,流れは基本構造に部分構造が埋め込まれるような構造になっています.基本構造は流れの構造の詳細については実際のVFMの画像を例に流れの構造を説明します.

VFMではエコー画像から上記のようなトポロジーの構造を表した画像が出力されます.画像のようなVFMで解析を行った心臓の血流を一部事前処理を行い,トポロジー的に齟齬のない流れを抜き出すと次の図のような流れが得られます.

この図の基本構造のみを抜き出すと以下の図のようになります.

この基本構造には図中のs∅1の文字列が与えられていて,球面上のポイントから出ていく流れとポイントに入っていく流れが球面を4分割する構造です.この基本構造に以下の図の部分構造を埋め込むことで元の図の流れとなります.

図から流れが基本構造と部分構造によって構成され,各構造に識別するための文字列が与えられていることが分かります.ここで部分構造の中でも青の構造のような埋め込み可能なを持つ構造が存在することを明らかにしておきます.各文字列が示す流れは以下の通りとなります.

  • σ~– –:時計回りに流れが流れ込む渦中心の構造に与えられる文字列
  • ~ :流れが流れ込む点に与えられる文字列
  • a~ :流れが交差する点とそれに隣接する2つの流れが流れ込む点の構造に与えられる文字列
  • ~+ :流れが出ていく点に与えられる文字列
  • λ ~ :まっすぐな流れを表す文字列

 ここまで流れの構造がどのようなものであるか説明を行いました.ここからは実際に流れからCOT表現を構成する方法を紹介します.

 COTを構成する場合まず部分構造から抽出します.上記の図から部分構造は緑,青,赤の3種類ですが,赤の構造は青の部分構造に埋め込まれています.この場合,埋め込まれている赤の構造から抽出します.抽出を行うと以下の画像のようになります.

次に赤の構造が埋め込まれている青の構造を抽出します.赤の構造は青の構造に埋め込まれているため以下の図のような抽出が行われます.

その後緑の構造の抽出を行います.緑の構造は青の構造と対の構造となります.

ここまでで部分構造をすべて抽出することが出来ました.最後に基本構造を抽出します.

以上のステップのように部分構造と基本構造を組み合わせることで,COT表現を構築出来ます.

*COT解析機能はiTEchoには搭載しておりません

 

参考文献

[1] Sakajo, T. and Itatani, K.: Topological Identification of Vortical Flow Structures in the Left Ventricle of the Heart, SIAM Journal on Imaging Sciences, Vol. 16, No. 3, pp. 1491–1519 (2023)