CFDによる冠動脈の解析の方法論を理解するには、境界条件(末梢応答をどのようにモデル化しているか)が重要です。
CFDは計算の条件として血管形状、血管の出入口に設定される圧力か流量の条件(解析ドメインの端に設定されるこうした条件は境界条件と呼ばれます)をもとに流体の方程式を解くことで流れをシミュレーションします。
形状だけでなく出入口の境界条件がシミュレーションの結果を大きく左右するので、適切に設定することが大切です。
たとえば、以下のような形状に対して入口Aに1L/min, 出口B,C,D3本に対してそれぞれ均一に100mmHgの圧力を設定して計算を行うと、血管の太さや曲がり方など形状の特徴に応じて出口に1L/minが不均等に配分されます。流体は圧力が高いところから低いところに向かって流れますので、例えば出口Bだけ50mmHgに下げるとBの流量が増加し、他2本は流量が減少します。
この出口の圧力をその出口流量に応じて自動的に調整することも可能です。例えば出口Bに想定される血流量よりも大きな流量が流れている場合はBの圧力を少し上昇させてBの流量を減少させ、想定に足りていない時はB圧力を下げてB流量を増加させるという調整を1心拍の計算の中で瞬間瞬間で行うことで、流れを制御することが可能です。
冠動脈の解析ではこの末梢の圧力調整に、古典的な抵抗のモデルを使い流量に比例した圧力が設定されるようにしています。
抵抗モデルは、狭窄による流量減少と末梢の圧力低下、圧較差による流れの加速など色々な要素のバランスを上手くとって計算できるので冠動脈の狭窄病変を解析するのに適しています。
抵抗が大きければ流量が流れにくくなり、抵抗が小さければ多くの流量が流れやすくなります。抵抗値は各枝ごとに灌流域体積に応じて設定することで、枝ごとの血流のDemandに応じた末梢応答の特性も正確に反映することができます。
こうした境界条件の工夫によって、グラフトをつないだときに末梢側が血流Demandに応じて圧力が調整されることで血流を奪い合うというような現象や、Native血管の流量でDemandが十分に満たされているせいでグラフトにはあまり流れないという現象も再現できるようになります。
末梢側の挙動は境界条件に設定したモデルで計算され、同時にグラフト形状や狭窄度の影響、吻合方法といった形状の要素もCFDの計算で反映され、双方のバランスに応じた血行動態が再現できるようになっています。