技術コラム CFD(数値流体力学)による血流解析

CFDとは

CFD(Computational Fluid Dynamics)とは物理モデルを用いてコンピューター上で流体に関する様々な事象を計算し、シミュレートする手法です。
血流のCFDはCT画像やMRIから得られた患者の血管形状と、カテーテルや超音波で得られた血流速度や血圧、血流の物性値(粘性など)といった情報を元に行われます。血流ベクトルと血圧の非常に細かい3次元分布を得ることができ、体内で起こる計測器では追え切れないミクロな事象、極めて短時間で遷移する細やかな現象を綿密に計算することが可能です。計算された血流の速度と圧は3CGによって可視化され、流れ場の向きを曲線で描く流線、血圧や壁ずり応力(Wall shear stress)の等値図といった多彩な方法で手に取るように把握することができます。

 またCFDは、血管形状作成、メッシュ作成による離散化、境界条件設定、近似解を収束させるための計算調整など、複数の工程を長時間かけて行うため、技術的な難易度は高いが、それに見合うだけのメリットを享受できます。コンピューターの性能に合わせて際限りなく時間分解能、空間分解能を上げることができるため、例えば、人工弁の弁面周囲で起こる細やかな渦流や、留意したステントと血管壁の隙間の血流の様相といったMRIや超音波では到底得られない情報が得られます。また、コンピューター上で解析する血管形状やパッチ拡大を仮想的に付け足して解析することも可能で、術後の血流を事前に予測することができます。

・CFDの原理
 流れの全貌を把握する方法の一つに、流速と圧の空間的、時間的分布を知るという方法
があります。これらの分布はナビエストークス方程式と呼ばれる流体の挙動を支配する方程式を解くことができます。
 CFDではコンピューター上で方程式を計算するため、解析する血管の形状を微小な四面体や六面体や三角柱の集合として、分割し、隣り合う微小空間の間で、運動量と質量の受け渡しを計算します。
 この微小空間の集合は、数値計算において「計算格子」または「メッシュ」と呼ばれ、その名の通り、解析形状内部の空間をジャングルジムのような3次元の網目状に分割します。こうして、メッシュの各要素において圧と流速が算出されることで、全体の流れを知ることができます。メッシュの細かさは任意に決めることができ、メッシュが細かいほど(メッシュの要素数が多いほど)詳細な解像までできますが、計算にかかる時間も比例して、大きくなるため、観察したい血流に関して、
必要十分な細かさに調整することが必要であります。例として、大動脈を解析する場合近年の報告では100~200万程度の要素数に分割している場合が多いです。
 シミュレーションを開始するにあたって、血管内を流れる流量や、圧などを計算条件として与える必要があります。この条件は血管の端(メッシュの境界面)に流速や圧として設定されるため、“境界条件”と呼ばれます。
 境界条件は一般に入口では流量が与えられ、出口では圧が与えられる場合が多い。近年は、末梢血管抵抗や圧反射などを複雑な電気回路で模擬することで、生理的な圧変動を再現する試みも見られます。
 設定した境界条件や血液の物性値などももとに各メッシュの微小空間内で質量と運動量を保存させるように流体の基礎方程式(ナビエストークス方程式)を解くことで、メッシュ各点の速度と圧を結果として得られます。この工程はある種のアルゴリズムを反復させることでナビエストークス方程式の近似値をの誤差を小さくしていくため、膨大な時間が掛かります。
 これらの結果は、3次元コンピュータグラフィックスによって流線や圧分布のカラーマップ、血流のアニメーションなど感覚的にわかりやすい画像で表示することができます。
 

・CFDの作業工程
・形状作成
 血管形状モデルを作成する際はMRI画像やCT画像を読み取って形状を作成も行います。3D CADやモデルリングソフトなども用いて行います。形状が完成したら、流体の計算に異常が出ないようにして凹凸がないようスムージングと呼ばれる形状を滑らかにする作業を行います。

 ・解析領域の定義(境界面の作成)
  シミュレーションしたい血管領域に流体(血液)が流入する入口と流出する出口を決めて、切り取って面を作成します。
・メッシュの作成
 境界面ができたら、メッシュと呼ばれる微小な要素(四面体や三角柱など)に分割します。この四面体や三角柱がつぶれていたりすると計算値が収束しないため、質の良いメッシュを作ることが正確な計算をする上で必要不可欠です。また、メッシュの要素数は多ければ多いほど細かい渦流まで可視化することが可能ですが、計算時間も比例して大きくなるため計算したい対象に合わせて要素数を調整することが必要です。
 
・ポストプロセッシング
 CFDで計算される結果は、3次元的な流速と圧の分布です。これらは数字で出てくるため、そのまま人間の目で結果を読み取ることは非常に困難なため、3D CGを用いて解析結果を可視化します。具体的には血管の流線やWSS(Wall shear stress)、Energy Loss、淀み点など可視化します。そして、画像からアニメーションを作成することもあります。
  
・CFDの限界
  CFDの限界としては、弁や心筋の挙動など再現しようとすると、流体だけでなく構造物の動き(弾性の運動方程式)のシミュレーションまでも連立させなくてはいけないため、スーパーコンピューターが必要な大規模な計算となり、技術的な難易度が極めて高いことが挙げられます。
計算結果はあくまでシミュレーションのため、必ずしも正しいとは限りません。CFDはその計算過程において多くの仮定を置きます。例えば血管の弾性は多くの場合無視されますし、血液の物性も患者一人ずつのデータを得られるとは限らないため通常文献値が用いられます。また、生体内は複雑な乱流を生じるため、計算コストを抑えるために乱流をモデル化するということが行われます。こうした仮定が計算する対象に合っていないと計算結果に無視できない誤差を生じさせることがあります。 そのためCFDの利用は実測のモダリティと併用することが有用です。

・循環器分野におけるCFDの成果
 ・心臓CFD
心臓のCFDは心筋壁の運動を伴うため、技術的な難易度が高く、より生理的な壁の運動を再現するために様々なアプローチが行われてきました。
  2000年に始まる初期の研究では、ボール状の単純な2次元のモデルによる血流シミュレーションであり、壁は予め指定された動きとして壁運動を再現しました。
  2003年には、3次元のシミュレーションも報告されています。これらは剛体壁が強制運動するため、壁と血流の相互作用は考慮されてはいませんでした。
  2004年には、心筋壁の弾性の相互作用が再現されたシミュレーションが報告されました。
 現在では、左心室のみならず、CTから構築した心臓全体のシミュレーションが行われています。
しかし、いずれも健常な心臓のシミュレーションであり、弁膜症などといった疾患をもった心臓のシミュレーションは見られない状況です。
 理由としては、データの習得が困難で、さらに疾患に特有なジェット流や乱流がシミュレーションが困難にしているためと考えられます。
 ・大動脈瘤CFD
胸部大動脈や腹部大動脈も脳動脈と同様に動脈瘤が好発する部位であり、破裂した場合、そのほとんどが死に至る重篤な疾患です。大動脈瘤の破裂リスクや発症メカニズムを血行力学的な観点から理解を深めることを目的として、MRIやCFDによる血流解析が行われています。
 大動脈瘤は、破裂の要因に血管にかかる力学的な負荷があると考えられており、血流CFDのみならず、それに付随した血管壁の構造解析も多く行われています。
 
・冠動脈疾患CFD
冠動脈の領域においては、CFDにより導出された壁ずり応力やその勾配、1心拍の中で壁ずり応力の向きの変化を表すOSI(oscillatory shear index)などから、冠動脈疾患の病理の解明を目指す研究が多く報告されているほかFFRCT(FFR computed from CT)というCFDによって冠血流予備比(fractional flow reserve,FFR)を計算する手法も台頭しています。
 冠動脈疾患の診断に使われている冠動脈CT血管造影は、真に虚血が生じている狭窄かどうか判断ができないという問題があり、またカテーテルによるFFR測定は、狭窄の有無にかかわらず灌流量を表現することができますが、侵襲性が高いからですFFCRはコンピュータ上でCTから冠動脈形状を構築し、CFDによって狭窄遠位の圧のシミュレーションを行う手法であり、低侵襲かつ低コストでFFRを知ることができるとして注目を集めています。

・先天性疾患CFD
  先天性心疾患の分野では、もともと解剖学的に形態が複雑で、手術後に血流がダイナミックに変化するため、血流形態を予測する手段としてCFDが使われています。なかでも、単心室症に対する最終手段の主流となっているFontan手術では、上大静脈と下大静脈からの血流がぶつかったのち、左右肺動脈へと向かうという複雑な血流動態をもち、循環の成否が患者の生命予後やQOL(quality of life) を規定することから,数々の流体力学的検討がなされてしました。
Fontan 循環では,下大静脈の血流が左右肺動脈にバランスよく配分されることが重要であり,CFD によって新たな術式を検討するといった試みもされています。
・脳動脈瘤 CFD
  脳動脈瘤は,破裂リスクと治療による後遺症のリスクとの兼ね合いから,治療の是非につい
て医師と患者は難しい意思決定を強いられている.瘤の発生,発達,破裂のメカニズムには血流が起因しているという考えがあり,瘤内の血流の様相を CFD で解析する試みがなされてきました。
破裂に関しては,壁ずり応力と破裂の関連をみる報告が多いですが, 高い壁ずり応力が破裂に起因する,低い壁ずり応力が破裂に起因するなど,相反した見解が存在します。その他にも,エネルギー損失や OSI など,
さまざまな指標から破裂との関連をみる試みがあるが,現状では破裂を確実に予見する指標は発見されておらず,今後が期待されています。
  
参考文献

1.Numata S, Itatani K, Kanda K, et al. Blood flow analysis of the aortic arch using computational fluid dynamics. EurJ Cardio-Thoracic Surg. 2016;(JANUARY):ezv459.

2.(技術講座生理)シリーズ 血流を診る・5 コンピュータシュミレーション 北里大学医学部血流解析学講座 同 心臓血管外科 早稲田大学先端生命医科学センター 宮崎 翔平, 板谷 慶一, 宮地 鑑 

3. CHSS Japan講演 血流解析が切り開く新たな診断法 4D Flow MRIの基礎から応用まで 株式会社Cardio Flow Design 宮崎 翔平